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顧客の100%が外資系企業である税理士山條隆史の解説です。

外国親会社がもとめる日本子会社からの会計報告のレポート

外国法人の日本子会社は、毎月、親会社の(もしくはグループ会社を統括する)コントローラーに会計報告を提出することを求められます。

本稿では、経理専担のスタッフを置く必要のない小規模な日本子会社(社長を含めせいぜい従業員が10名くらいまでの規模)が、毎月報告すべき事項、決算に際して求められる作業につき、一般的な指針として説明します。

もちろん、親会社のお国柄によっても、要求の厳しさはまちまちですが、標準的な流れとしてご参照ください。

前提として、

・外国法人(親会社の資本金は10億円)の日本子会社(株式会社)で資本金が1千万円

・会計期間は1月1日~12月31日

経理専担のスタッフはいない

とします。

<目次>

1.経理専担のスタッフを置かないメリット

小規模の外資系会社(=日本子会社)に経理専担のスタッフを置く必要はありませんし、金銭的にも置く余裕はないはずです。

日本の拠点を作り、日本でビジネスを立ち上げた当初は、社長一人というケースも少なくありません。その後徐々にスタッフを採用して業務を拡大して行きますが、まずは営業担当者の採用が優先され、管理・総務的な仕事は社長が兼務しながら、外部専門家に依頼することになります。

英語ができて、経理も任せられる人を採用するとなると、最低でも年俸500万円程度の求人となります。英語が必要というだけで経理ができる人たちの相場の2倍となります。会社の規模が小さいうちには、親会社から求められる会計報告も必要最低限で済みますので、外部依頼で十分です。

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日本での事業規模が大きくなり、顧客の数も増え・スタッフの数も増えると、日々の請求書等の発行や経営レポート・予実比較・事業計画書の作成や報告等々、外部依頼では対処しきれない業務が必要となります。経理専担スタッフの採用はそうした段階になってからで十分です。

小規模会社のお金周りから会計報告まで社長が関与することは、それまで営業活動しかしてこなかった方にとって最初は大変なようです。しかしながら、資金の流れと経理の数字まで頭の中に入った状態で、営業の代表というよりも経営者として親会社の経営陣と話ができることになり、親会社および社長自身にとっても良い作用として働いているようです。 

2.従業員の経費精算

(1)普段の小払い

経理・総務などのAdmin(管理業務)は最小限にします。そのため、小払いのPetty cash(小口現金)などは持ちません。会社に現金があると、その受払の都度、帳簿に記帳し、現金残高も毎日実査(=手で数える)必要があります。そんな無駄は排除です。

そのため、随時の小払い(たとえば、郵便切手代金や宅配の代引き料金など)は従業員の立替とし、他の交通費の精算と一緒に、月一回の精算報告で、給料とともに振込まれることになります。ここでは会社の現金は一切動きませんので、記帳や現金実査は不要です。

(2)旅費交通費等の精算

交通費や諸経費はスタッフ各人が立て替えて、月末までに発生した分をまとめて翌月初頭に社長に報告します。社長が承認すればその月の給料とともに個人宛に振り込まれます。

経費精算は、親会社のコントローラーが確認する場合もあるので、親会社のフォーマットをそのまま使い、それに各人が入力します。使ったお金の使途は本人しかわかりませんので、おおまかな経費区分ごと本人に記載してもらいます。

なお、この際、日本の消費税や法人税の必要記載項目も充足していなければなりませんので、経費の支払先や購入日、相手先との関係や人数なども記入します。レシートの原本もこの精算書の裏に貼付するか別紙として添付します。

No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿の記載内容|消費税|国税庁

接待飲食費に関するFAQ|パンフレット・手引き|国税庁

親会社によっては、内部統制の観点から、社長の経費精算は親会社のコントローラーの承認が必要な場合もあります。こうした承認のシステムは、親会社の指示に従います。 

3.毎月の会計報告

(1)試算表の報告

外資系企業の場合、当月の会計報告は、翌月5日~10日ころまでに行うことが求められます。親会社の連結財務諸表作成のタイミングにもよるので、各社で違いはありますが、大体この辺りまでに報告しなければなりません。

期中は、正確さよりもスピードが求められますので、期限に遅れないことが絶対要件です。

期中であっても売上や仕入、毎月発生する固定的な経費については発生主義での計上が必要です。減価償却費などは月次平均値の計上となります。相手先が月末に帳簿を締めてそれから請求書が送られてくる場合は、支払いベースでの経費計上となりますが、これくらいはOKです。

いずれにせよ、親会社の経理方針に従います。

(2)資金明細の報告

会計上の数字と実際のお金の動きにはずれが生じます。自社の売上は請求書を送ってから1~2か月後の入金となりますし、他社への支払いは請求書が届いたてから半月~2か月後の支払いとなります。

親会社のコントローラーは全世界のグループ会社の資金繰りも管理しますので、実際のお金の動きの報告も月次報告の一つとされる場合も少なくありません。

銀行の取引明細書やExcelなどで作った支払一覧(=もちろん英語で作成)を毎月報告することになります。Payment service / Financial Administrative services

(3)資金繰りや予実対比の報告

親会社によっては、翌月のCash Flowの予定表を提出させ、月末にはその予実比較をした実績表の提出を課してくるところもあります。

同様に、会計報告で、予算との対比を求められたら、それも作成しなければなりません。 

4.1年分のまとめの会計報告は1月2日が期限!?

 欧米人はクリスマスが最大の休みとなり、12/24-12/27までは全く動かない会社が多いです。(中国系は旧正月を大事にしますので、2月の頭に1週間不在となります)

しかしながら、クリスマスが終わると、1/1だけ休みで、1/2からは通常業務です。

12/31に前期の会計年度が終わっているので、1年間の世界全社のグループの会計(連結決算)をまとめるために、子会社には1/2までに12月分を送ってくるようにという指示のある会社は少なくありません。

12月は、1年分ができるだけもれなく入っていなければならないので、確定していない経費も何も見積りで計上します。1月の頭に1年分のグループの会計の数字が固まると、それ以後の修正はNG(厳禁)となります。 

5.日本子会社の会計や税務はどうでもよい?!

(1)親会社の会計方針に従う

外資系企業の経理は、日本の会計基準や税法基準を採用するというより、本国での会計基準に則った会計方針を採用していることが多く、その基準と日本の税法との調整が法人税の申告書作成における大きな特徴といえます。

 例えば、減価償却で、日本の税法基準では8年で定率法(選定しない法定の場合)であるのに、本国での基準では36ヶ月の定額法といった場合、当初は減価償却超過額の損金不算入が発生し、途中からその認容が始まります。

(2)日本の税務はどうでもよい

大抵の場合、親会社の規模から考えると、日本子会社の規模は売上も利益も3桁も4桁も違います。そのため、親会社から見ると日本の税金の高い安いは眼中になく、全世界ベースで一番節税となるプランを採用しています。また、ビジネス優先となるため、日本の税法規定ではこっちが有利だからこちらの方法を選択しようといった発想にはなりません。

(3)日本側では税法に則った申告が必要です

親会社が日本の税法を無視するといっても、日本子会社は税法に則った申告をしなければなりません。会計の数字は早々に占められて動かせませんので、税務申告書で税法に則った調整が行われることになります。

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Japanese  corporation tax for foreign affiliate company.

(4)内部監査や法定監査がある場合も

日本の子会社自体は、公認会計士の法定監査が必要になるケースはほどんどありません。原則として、会計士監査が必要となるのは資本金5億円以上、負債200億円以上の場合です。

そのため、小規模な外資系会社に自社の法定監査が必要とされることはありませんが、親会社の法定監査の一環で国際会計事務所の監査が入る場合もあります。

また、内部統制がきちんとできているかどうかの確認で、親会社本社から、内部監査人がやってきて内部監査を受けるというケースもあります。その場合も、親会社が決めたルール通りになっているのかがチェックされ、日本の規定はほとんど考慮されません。

(5)労働法規には敏感?

日本の規定をことごとく無視する外資系企業ですが、雇用関係の法規はきちんと守ります。

ただし、突然の馘(=解雇)もあります。このときもきちんと日本の法規に則って周到に準備したうえで実行されています。

 

※親会社の方針を日本の規定に修正しながら各種規定を整備しておくことになります。

 

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