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顧客の100%が外資系企業である税理士山條隆史の解説です。

How to set up a Japan Representative office. 外資系企業による日本進出の第一歩、駐在員事務所の設置

外国法人が日本でビジネスを行う場合の事業形態につき、日本市場向けの事業拡大の段階ごとに要点をまとめています。

①本国からの輸出による販売→②代理店業務委託(ここから本格的に日本進出)③駐在員事務所設置し feasibility study → ④子会社(Subsidiary)もしくは支店(Branch office)設置による事業活動開始という段階を踏みます。

③の実現可能性調査の段階で自社の社員を置いて2~3年日本市場での事業の見込みを再度調査してから④に進む場合もありますし、②や③の段階も経ずに、いきなり④で事業活動を開始する場合もあります。

自社にとってどういった形態が適切かの判断は、各社のビジネスの実態(いままでの経緯やこれからの見通し)によって変わってきます。一概にどういった方法がよいとは言えません。現状でのベストな選択は何かということは、それぞれに事情を伺ってからの提案となります。

本稿では、③の駐在員事務所の設置に関して、具体的手続き、および設置後の運営と、本国への報告の流れを説明します。

<目次>

1.駐在員事務所は事業活動ができない

一般的に外国企業は日本国内に情報の収集や市場調査のための駐在員事務所を開設することができます。

外国為替管理法上、このような事務所の開設は、承認・届出・登記などの手続きの必要はありません。

(ただし、駐在員事務所が営業活動を行うようになると、税務上PE(恒久的施設)となり、納税義務の発生および外国為替管理法上の届出が必要となります。)

<税務上注意すべき重要な点>

日本に進出してくる外国企業が日本での税金がどう適用されるかは相手国と日本との租税条約の有無によって変わってきます。一般論として、OECD条約モデルで見てゆきます。特に注意してほしい箇所を強調して色付けをしました。緑色の字が課税対象とはならない駐在員事務所にあたる活動赤色の字が課税対象となってもはや駐在員事務所とは言えない活動です。

**********  OECD条約モデルより必要箇所を抜粋 **********

第5条 恒久的施設
1.「恒久的施設」とは、事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っている場所をいう。
2.「恒久的施設」には、特に、次のものを含む。
a)事業の管理の場所、b)支店、c)事務所、d)工場、e)作業場、f)鉱山(…略…)
3.建築工事現場(…略…)。
4.1から3までの規定にかかわらず、次のことを行う場合は、「恒久的施設」に当たらないものとする。
a) 企業に属する物品又は商品の保管、展示又は引渡しのためにのみ施設を使用すること。
b) 企業に属する物品又は商品の在庫を保管、展示又は引渡しのためにのみ保有すること。
c) 企業に属する物品又は商品の在庫を他の企業による加工のためにのみ保有すること。
d) 企業のために物品若しくは商品を購入し、又は情報を収集することのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。
e) 企業のためにその他の準備的又は補助的な性格の活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。
f) a)からe)までに掲げる活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。ただし、当該一定の場所におけるこのような組合せによる活動の全体が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。
5.1及び2の規定にかかわらず、企業に代わって行動する者(6の規定が適用される独立の地位を有する代理人を除く。)が、一方の締約国内で、当該企業の名において契約を締結する権限を有し、かつ、この権限を反復して行使する場合には、当該企業は、その者が当該企業のために行うすべての活動について、当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとされる。ただし、その者の活動が4に掲げる活動(事業を行う一定の場所で行われたとしても、4の規定により当該一定の場所が恒久的施設とされない活動)のみである場合は、この限りでない。
6.企業は、通常の方法でその業務を行う仲立人、問屋その他の独立の地位を有する代理人を通じて一方の締約国内で事業を行っているという理由のみでは、当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとされない。
7.一方の締約国の居住者である法人が、他方の締約国の居住者である法人若しくは他方の締約国内において事業(恒久的施設を通じて行われるものであるか否かを問わない。)を行う法人を支配し、又はこれらに支配されているという事実のみによっては、いずれの一方の法人も、他方の法人の恒久的施設とはされない。  

**********  OECD条約モデルより必要箇所を抜粋 ここまで **********

日本国内で情報の収集や市場調査などの補助的な活動であれば、駐在員事務所でOK。これには今後、日本で事業活動を行っていけるかどうかのfeasibility study (=実現可能調査)の段階が含まれます。

一方、本国の企業の名で契約を締結する権限を有し、かつ、この権限を反復して行使する場合には、もはや駐在員事務所とは言えず、「PE(Permanent Establishment)=恒久的施設」として事業活動を行っているので、「法的にも登記して、税金を納めてください」ということになります。

<怖いのはPE認定されて追加税金やペナルティが発生すること>

やってはいけないことで、気を付けないとよくやってしまいがちな行動は、「日本事務所のスタッフが、日本国内で、本国企業の名において契約を締結する権限を有し、かつ、この権限を反復して行使すること」です。

こうした活動をしながら、駐在員事務所だから日本の税金申告は不要として申告等をせずにいて、後日税務当局からPEと認定されれば、追加税金課税と無申告等の罰金が科されることになります。

本国の会社の資本金が大きい場合(※)には、特に思わぬ大きな税金がかかってくることになりますので、常にPEに該当しないような活動にとどめておかなければなりません。

(※)会社の資本金等の大きさで一律に課税される均等割という地方税があります。

 f:id:point-get:20180314125145j:plain法人住民税均等割:東京都

また、法人税でも、大法人の場合は交際費の経費算入が制限されるなどの不利な規定もあります。 

2.駐在員事務所は法務局への登記が要らない

PEに該当しないということであれば、法務局への登記は不要です。

3.駐在員事務所は人を雇える

日本国内で人を採用して補助的な活動をしてもらうための駐在員事務所です。人の採用にあたってもいくつかの留意点があります。 

(1)誰でも雇えるか?

VISAの問題がなければ誰でも雇えます。

本国からスタッフを派遣する場合は、労働許可証を取らなければなりません。駐在員事務所の場合には、事務所の賃貸の実在性や資産用件等難しくクリアーしなければならない課題もありますが、どうしても本国からスタッフを派遣して活動してもらいたい場合には、事前にビザの専門家(=取次申請行政書士:Immigration Lawyer)の方からのアドバイスを受けながら、準備が必要になります。

日本人のローカル採用や外国人でも奥さんが日本人で配偶者ビザによる労働制限がない場合は、上記の手続きは不要です。 

(2)給料を払えるか?

給料の払い方は、①日本国内で駐在員事務所が給与支払者となる、②本国から従業員の口座に外国送金をするの2つの方法があります。

①駐在員事務所が給料を支払うときは、所轄の税務署に「給与支払事務所等の開設届」を出し、毎月給料から所得税を厳選し、翌月10日までに国に納付することになります。年末には所得税の精算のための計算である年末調整をし、翌年1月末までに従業員が1月1日現在住む市町村に給与支払報告書を提出しなければなりません。その報告を受け、各地方自治体から各人の住民税が決定・通知されますので、翌年6月からは住民税の特別徴収・納付も給与支払者の義務作業に加わります。

②従業員の銀行口座に国外から給料が直接振り込まれる場合には、毎月の源泉徴収や住民税の特別徴収は不要です。従業員本人が所得税の確定申告・納付をし、住民税の納付も自分で行うことになります。

(3)社会保険に加入できるか?

法人の事業所は社会保険への加入は義務となっています。外国法人の日本駐在員事務所もこれに該当しますので、加入は義務です。

しかしながら、給料の支払い方が上記の②本国から従業員の口座に外国送金をする場合、社会保険料の算定基礎となる数字(=国内払いの給与額)がゼロとなりますので、実質的に加入できません。社会保険加入の態勢を整えるためには、給料は①日本国内で駐在員事務所が支給することになります。 

社会保険制度加入のご案内|日本年金機構

↑ 日、英、中、韓、スペイン、ポルトガル6か国語のパンフレットがあります。

(4)労働保険(労災保険雇用保険)はカバーされるのか?

1)従業員が1人しかいない場合

法人といえども、駐在員事務所の場合、労働保険加入にあたっては、事務所代表者がみなし事業主として手続されることになります。そのため、駐在員事務所の従業員が代表者1人しかいない場合には、加入できません。

2)従業員が2名以上いる場合

従業員が2名以上であれば、代表者をみなし事業主として、駐在員事務所が労働保険に加入できます。この場合において、代表者とそれ以外の従業員で加入できる(=本来は義務)保険が違ってきます。

労働保険は、労災保険雇用保険を総称した言葉です。

通勤時や職務中の災害には労災保険が適用されますが、これは代表者を含めて全員が対象です。ただし、代表者は特別加入という制度により、給与をもとにした数字とは違う保険の上限もあります。

雇用保険は、代表者以外の人にのみ適用され、みなし雇用主である代表者は一切加入できません。 

4.駐在員事務所は銀行口座を持てない

駐在員事務所は、法務局に投棄されないため法人格がないので、銀行口座を持つことができません。

給料の支払いは、代表者の個人口座を経由するか、外部の会計事務所に支払代行業務を依頼するのが一般的です。また内部統制の観点からも外部委託がおススメです。

www.yamajo-tax.com

なお、銀行によっては、本国の親会社が非居住者口座を持つことができるサービスを提供しているところもありますが、毎月の維持管理用が高く一般的ではありません。 

5.駐在員事務所の申告や報告義務(対日本政府・自治体)

駐在員事務所が行わなければならないCompliance法令遵守)業務 は、給与支払者である場合の「源泉徴収義務」、1年間の源泉所得税等の支払いをまとめた「法定調書」、従業員の居住自治体への「給与支払報告書」の提出などです。

なお、事業に使っている償却資産がある場合は、「償却資産申告書」も提出しなければなりません。

6.駐在員事務所の本国への会計報告

駐在員事務所に該当すれば、日本では会計帳簿作成の義務はありません。本国から何らかの報告が求められる場合にはそれに従います。

 

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