外国会社が日本のビジネス拠点を設立するに際しては、会社設立の専門家に頼むことになります。会社設立の専門家といえば行政書士・司法書士ですが、彼らだけにおんぶにだっこでおまかせすることはお勧めできません。立ち上げ時の総費用が安くなっても、あとで損をしていたケースをいくつも見てきました。
特に外国法人は、本国と日本の租税条約や親会社やその上の会社の自国における税金問題まで含めた検討が必要です。日本子会社の設立には、税金上の検討が欠かせないのです!! 行政書士や司法書士は、税金の検討ができません。だから、日本子会社の設立相談を行政書士や司法書士にすると、あとで損をしてしまっていたことに気づいて後悔する場合もあるのです。
誤解してもらっては困りますからハッキリ言っておきますが、行政書士や司法書士の関与を否定しているわけではありません。会社設立手続きは行政書士や司法書士しかできない業務ですし、実際に当方で会社設立を依頼された時も、書類の作成や申請の手続きは外部の提携先司法書士に依頼しています。彼らの専属業務だし、書類作成の専門家として信頼しているからです。
でも、どんな会社にすべきかの設計は、税務上の観点からの検討が不可欠なので、会社設立相談を行政書士や司法書士にしてはいけないのです。特に外国法人にはそうだと断言できます。
本稿では、外国会社が日本子会社等を設立するに際して、どんな点に注意して検討すべきか等、いくつかの事例で説明します。
<目次>
1.株主(=親会社)はどこの国か
多国籍企業の場合、日本子会社の株主=親会社をどこの国の会社にするのかの検討も必要です。
多国籍企業とは、複数の国で事業展開している国際的な会社です。こうした会社の場合、たとえば、アメリカにグループの本部があり、アジアはシンガポールの子会社が管理し、欧州はドイツ子会社で担当し、アフリカはフランス(=旧植民地国が多いため)子会社が担当するなど、地域で管轄を分けていることもあります。
地域統括会社の下に現地子会社を作るときには、地域統括会社が親会社となって出資するのがよいのか、それとも本部であるアメリカから直接投資した方がよいのかといった検討が必要となります。
将来日本で儲かったお金をどう還元するのか(=配当か、次の事業への投資かなど)まで含め、検討しなければなりません。
例1:租税条約の有無
配当:
将来的に日本の子会社の利益が蓄積(=儲け-税金)されれば、それを配当という形で親会社に分配することになります。
配当に際しては、日本の所得税法の規定で、原則20.42%の源泉徴収が必要となります。もし、配当を受ける会社の国と日本との間で租税条約の締結があれば、この20.42%という税率が、15%~ゼロ%に軽減される手続きをとることもできます。
日本は、平成30年3月1日現在、70条約等、123か国・地域適用の租税条約ネットワークがあります。
親会社がアメリカで日本が100%子会社である場合、日米租税条約の適用で5%もしくは免税(一定の要件の場合)となります。しかしながら、租税条約が締結されていない国(たとえばモンゴル・モロッコなど)などであれば、原則の源泉税率20.42%が適用されます。
使用料:
ソフトウェアの使用料なども源泉徴収の対象です。対アメリカであれば免税で0%となり全額使用料を支払えますが、対インドだと10%です。これは総額の10%なので、本国で外国税額控除により回収できなければ大きな負担となっていしまいます。
利子:
会社の立ち上げ当初、運転資金や設備資金を親会社からの借入で賄う場合もあります。この借入に対する利子を支払う場合も20.42%の源泉税が発生しますが、租税条約があれば15%~ゼロ%に軽減される手続きをとることもできます。
その他:
外国会社にお金を払うときは、常に、源泉税の有無に注意しなければなりません。将来日本で行うビジネスのお金の流れがどうなって、どこで源泉徴収義務があるのか、その場合の対応(=租税条約)の有無も、会社設立前から検討すべき事項です。
例2:本国における税制の問題
たとえば、アメリカが親会社である場合、日本子会社の形態として、株式会社ではなく合同会社を選択すると本国での税制上有利になる場合があります。
下記「1.(3)親会社が米国企業の場合」ご参照
また、インドの税法では、サービスフィーの支払に20%の源泉税を徴収しなければならないことになっています。もし、日本の子会社が日本での顧客開拓や市場調査、広告宣伝など補助的な業務で役務提供対価としてサービスフィーを請求するようなビジネスを考えていたとしても、源泉税がネックとなってこのビジネス形態は成り立ちにくいという判断となります。
2.資本金をいくらにするか
その会社が行う事業にふさわしい資本金額というものもあります。業種、業界、他の取引先との関係を勘案した上で資本金の額を決めることになります。
また、資本金の金額で税金の額や適用される税法が変わってきます。たとえば、地方税の均等割や法人税の交際費規定(2(1)参照)、消費税の納税義務の免税規定や事業税の外形標準課税などです。
会社設立の時の登録免許税の削減目的だけで、資本金を小さくしたり、株式会社ではなく合同会社を勧めたり、はたまた、初期投資資本を資本金と資本準備金に分けたりといった、先を見通さないアドバイスにも何度か出くわしました。後々回復のために面倒な手続きが必要となったり、実際に損をしたりするようなアドバイスは止めてほしいものです。
3.会社設立直後の税務届出書
会社設立後に、税務署などに会社設立の届出書や青色申告書の承認の申請書、消費税の各種選択届出書を提出する必要があります。こうした税務の届出書は、税理士の専属業務であり、行政書士や司法書士は代行できません。それがわかっているので、彼らが書類の作成はしませんが、「こうした書類を作って自分で提出してください」といった見本を渡しているケースも多く見てきました。
会社側で適切に書類を作成して期限までに提出すれば問題は発生しませんが、往々にして記載事項に間違いがあったり、提出期限に遅れてしまうことも少なくありません。
青色申告書の承認の申請が遅れると、欠損金の繰越控除ができなくなります。この場合、「初年度は赤字で、2年目から黒字だが、初年度の欠損金との相殺で納税はゼロ」という特典を受けられなくなってしまいます。
※他にも、会社設立のタイミングと最初の決算日との関係で、提出期限が変わってくるので、要注意となる書類がたくさんあります。
4.初年度の会計・決算
会社を設立した後は、とにかく本業のビジネスの立ち上げに突っ走ります。本国から指示されない限り、経理なんて後回し、運転資金さえ回っていればOKです。
が、“ハッと気づくと、もうすぐ決算期末で様々な会計報告書の指示が本国から送られてきて大慌て”という相談も何回かありました。
会社設立で行政書士にサポートしてもらい、それっきりというのが典型的でした。
“税務届出書の提出期限遅れ”はあるは、“会計書類はゼロから作成しなければならない”はで、年末年始がなくなってしまうよう事態を避けるためにも、当初から会計事務所の関与がおススメです。