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顧客の100%が外資系企業である税理士山條隆史の解説です。

How to set up a business in Japan.  外資系企業の日本でのビジネスの始め方

 

外国法人が日本で事業(営業活動)を行う際には「子会社(Subsidiary)」もしくは「支店(Branch office)」のいずれかの登記が必要です。

「駐在員事務所(Representative office)」のままでは営業活動はできません。

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子会社もしくは支店のどちらの形態が適切かの判断は、各社のビジネスの実態によって変わってきます。

しかしながら、一般的には、子会社の方が運用が簡単です。

実際には、支店形態でビジネスを行うのは、銀行などの法律で決められた許認可が必要な業種、もしくは、租税条約の適用で支店形態の方が税務上有利になるビジネス(たとえば、インド法人がソフトウェア開発を日本の顧客に出向いて行う場合など)に限られます。

本稿では、子会社設立の手順から、事業を始めるための銀行口座の開設までの一連の流れを外資系クライアント100%の税理士山條隆史が解説します。

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<目次>

1.子会社とは

(1)子会社とは日本の法律で設立された会社

子会社(Subsidiary)は日本の会社法を根拠法律として設立された会社です。

(2)会社の種類

株式会社、合同会社、合名会社、合資会社の4種類があります。外資系法人の場合は、ほとんどが株式会社もしくは合同会社で設立します。

①株式会社(KK: Kabushiki Kaisha)

親会社にはJoint Stock Companyと説明すればわかりやすいかと思います。米国企業が親会社である場合を除き、この形態が一般的であり、おススメです。

(設立時の登録免許税節約の観点から合同会社を勧める専門家-特に司法書士-もいますが、運用に自由性がある分、外資系の日本子会社としてはお勧めできません)

合同会社(GK:Godo Kaisha)-日本版LLCとも呼ばれます

親会社にはJapanese LLCと説明すればわかりやすいかと思います。

平成18年(2006年)の会社法により新しく設けられた形態である合同会社は、日本版LLC(Limited Liability Company)とも呼ばれ、「有限責任」、「(機関がシンプルなので)迅速な意思決定」、「利益や権限の配分を自由に設定(=内部自治原則)」等のメリットがあり、小さなビジネスにとっては使い勝手がよい事業形態と言えます。
一方、デメリットとしては、株式会社に比べて信頼性が低く見られがち、株主総会や決算書の承認手続きなどが不要なので何となく内部手続きにもしまりがないなどが挙げられます。

(3)親会社が米国企業の場合

①米国の日本子会社は合同会社形態が多い
米国企業が親会社である場合には、合同会社形態が必要かどうか、米国税法の観点から親会社に確認してもらう必要があります。米国ウォルマートの日本法人である西友も、米国ケロッグ社の日本法人の日本ケロッグも、会社の形態は“合同会社”です。

②親会社の事情で合同会社が選ばれる理由
米国の会社が日本の子会社の会社形態として合同会社を選ぶ理由の一つに、米国本国における税務上のメリットがあります。
アメリカの税法には、チェック・ザ・ボックス規則というものがあり、要件に合えば、日本の子会社所得をパススルー課税(企業体には課税されずその構成員の所得として課税する)を選べる制度があります。(注:日本の合同会社は普通に法人税が課税されます。日本での課税がなくなるわけではありません。
国税制で合同会社パススルー課税の対象外として列挙されていないためアメリカ親会社側で税制上のメリットが生じます。
効果としては、立上げ初期時の欠損を支店と同様に米国株主の利益と相殺できることにあります。実際に支店登記すれば本店の資本金で均等割課税されるのでその分不利となりますが、パススルーであればそれを避けて米国でメリットを享受できます。
国外進出時に検討すべき大事なことの一つです。

2.株式会社設立の手順

 (1)事前準備

・株主(親会社)が決めることは、基本事項の決定です。会社名、 役員、事業目的、 会社住所、 払込資本金・授権資本、 会計期間=事業年度などです。

・類似照合の調査、定款の作成は、司法書士が行います。

・会社印・代表取締役印等、必要な印鑑を発注します。 

(2)会社の登録

「発起人会→定款の認証→・・・→・・・」の一連の手続きは、専門家である司法書士に依頼します。

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以前は、資本金払込証明書を銀行に作成してもらってそれを証明書として設立をする手続きを取っていました。しかしながら、いまは、どこの銀行も面倒な手続きとして受けてくれません。そのため、通帳を証明書として活用していますが、実際の作業としては担当する司法書士が全部やってくれます。

なお、以前は、日本の会社の取締役(=役員)は、日本在住の個人(=国籍は問わない)でなければなりませんでした。

しかしながら、法務省の「平成27年3月16日民商第29号通知」で、内国会社の代表取締役のうち,最低1人は日本に住所を有していなければならないという従前の取扱いは廃止され,代表取締役の全員が日本に住所を有しない内国株式会社の設立の登記及びその代表取締役の重任若しくは就任の登記について,申請を受理する取扱いとなりました。よって、国外親会社の役員のみで日本子会社の役員を構成することも可能となっています。

ただし、これにはメリットとデメリットがあります。こちらの解説をご参照ください。

3.会社設立後に必要な届出書

 (1)日本銀行への届出

外国為替管理法による届出を設立の翌月15日までに日本銀行経由で関係大臣に届出しなければなりません。

報告書様式および記入の手引等(2014年以降適用) : 日本銀行 Bank of Japan

(2)税務署関係への届出

所轄税務署都道府県税事務所・市区町村の税務課に設立届

[手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出|源泉所得税関係|国税庁

[手続名]青色申告書の承認の申請|法人税|国税庁

[手続名]申告期限の延長の特例の申請|法人税|国税庁

その他必要な届出書会社ごとに必要な書類は違います。税金の専門家税理士に相談してください。

(3)社会保険の加入 

従業員を採用すると社会保険や労働保険にも加入しなければなりません。手続きは社会保険労務士に依頼するとスムーズです。

社会保険制度加入のご案内|日本年金機構

↑ 日、英、中、韓、スペイン、ポルトガル6か国語のパンフレットがあります。

(4)労働保険(労災保険雇用保険)はカバーされるのか?

1)従業員が1人しかいない場合

人を採用すると労働保険(労災保険雇用保険)への加入義務ですが、従業員が代表取締役である役員1人しかいない法人の場合、労働保険(労災保険雇用保険)に加入することができません。2名以上となった段階で、手続きできるようになります。

2)従業員が2名以上いる場合

従業員が2名以上であれば、労働保険(労災保険雇用保険)への加入となります。政府管掌の労働局で手続きをする労働保険の場合は、取締役である役員は加入できません。社会保険労務士の団体が管理している労働保険事務組合であれば、役員も特別加入制度により一定の労働保険に加入することができます。

www.mhlw.go.jp

なお、取締役は、雇用保険には一切加入することができません。

4.銀行口座の開設

子会社設立手続きの中での最難関が銀行口座の開設です。

マネーロンダリング防止の観点から国の指導が厳しくなり、各銀行とも簡単には口座開設をさせてくれません。たとえば、会社設立後登記簿謄本を持参し口座開設申請をする→銀行内(本店もしくは支店)の審査→1週間後に事業内容に関する説明の面談→(再度銀行内審査で)さらに1週間後にようやく口座開設といった手順で2週間超かかると覚悟しておかなければなりません。

とはいえ、しっかりとした事業計画があり、実際にきちんとしたビジネスを行える会社であれば、問題ありません。

 

※お問い合わせは下記フォームでお送りください。

(初回問い合わせは無料です。具体的な相談案件となりましたら報酬が発生します。) 

 

 

外国法人は日本子会社の設立相談を行政書士や司法書士にすると損します!

外国会社が日本のビジネス拠点を設立するに際しては、会社設立の専門家に頼むことになります。会社設立の専門家といえば行政書士司法書士ですが、彼らだけにおんぶにだっこでおまかせすることはお勧めできません。立ち上げ時の総費用が安くなっても、あとで損をしていたケースをいくつも見てきました。

特に外国法人は、本国と日本の租税条約や親会社やその上の会社の自国における税金問題まで含めた検討が必要です。日本子会社の設立には、税金上の検討が欠かせないのです!! 行政書士司法書士は、税金の検討ができません。だから、日本子会社の設立相談を行政書士司法書士にすると、あとで損をしてしまっていたことに気づいて後悔する場合もあるのです。

誤解してもらっては困りますからハッキリ言っておきますが、行政書士司法書士の関与を否定しているわけではありません。会社設立手続きは行政書士司法書士しかできない業務ですし、実際に当方で会社設立を依頼された時書類の作成申請の手続き外部の提携先司法書士に依頼しています。彼らの専属業務だし、書類作成の専門家として信頼しているからです。

でも、どんな会社にすべきかの設計は、税務上の観点からの検討が不可欠なので、会社設立相談行政書士司法書士してはいけないのです。特に外国法人にはそうだと断言できます。

本稿では、外国会社が日本子会社等を設立するに際して、どんな点に注意して検討すべきか等、いくつかの事例で説明します。

<目次>

1.株主(=親会社)はどこの国か

多国籍企業の場合、日本子会社の株主=親会社をどこの国の会社にするのかの検討も必要です。

多国籍企業とは、複数の国で事業展開している国際的な会社です。こうした会社の場合、たとえば、アメリカにグループの本部があり、アジアはシンガポールの子会社が管理し、欧州はドイツ子会社で担当し、アフリカはフランス(=旧植民地国が多いため)子会社が担当するなど、地域で管轄を分けていることもあります。

地域統括会社の下に現地子会社を作るときには、地域統括会社が親会社となって出資するのがよいのか、それとも本部であるアメリカから直接投資した方がよいのかといった検討が必要となります。

将来日本で儲かったお金をどう還元するのか(=配当か、次の事業への投資かなど)まで含め、検討しなければなりません。

例1:租税条約の有無

配当:

将来的に日本の子会社の利益が蓄積(=儲け-税金)されれば、それを配当という形で親会社に分配することになります。

配当に際しては、日本の所得税法の規定で、原則20.42%の源泉徴収が必要となります。もし、配当を受ける会社の国と日本との間で租税条約の締結があれば、この20.42%という税率が、15%~ゼロ%に軽減される手続きをとることもできます。

日本は、平成30年3月1日現在、70条約等、123か国・地域適用の租税条約ネットワークがあります。

www.mof.go.jp

親会社がアメリカで日本が100%子会社である場合、日米租税条約の適用で5%もしくは免税(一定の要件の場合)となります。しかしながら、租税条約が締結されていない国(たとえばモンゴル・モロッコなど)などであれば、原則の源泉税率20.42%が適用されます。

使用料:

ソフトウェアの使用料なども源泉徴収の対象です。対アメリカであれば免税で0%となり全額使用料を支払えますが、対インドだと10%です。これは総額の10%なので、本国で外国税額控除により回収できなければ大きな負担となっていしまいます。

利子:

会社の立ち上げ当初、運転資金や設備資金を親会社からの借入で賄う場合もあります。この借入に対する利子を支払う場合も20.42%の源泉税が発生しますが、租税条約があれば15%~ゼロ%に軽減される手続きをとることもできます。

その他:

外国会社にお金を払うときは、常に、源泉税の有無に注意しなければなりません。将来日本で行うビジネスのお金の流れがどうなって、どこで源泉徴収義務があるのか、その場合の対応(=租税条約)の有無も、会社設立前から検討すべき事項です。

例2:本国における税制の問題

たとえば、アメリカが親会社である場合、日本子会社の形態として、株式会社ではなく合同会社を選択すると本国での税制上有利になる場合があります。

下記「1.(3)親会社が米国企業の場合」ご参照

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また、インドの税法では、サービスフィーの支払に20%の源泉税を徴収しなければならないことになっています。もし、日本の子会社が日本での顧客開拓や市場調査、広告宣伝など補助的な業務で役務提供対価としてサービスフィーを請求するようなビジネスを考えていたとしても、源泉税がネックとなってこのビジネス形態は成り立ちにくいという判断となります。 

2.資本金をいくらにするか

その会社が行う事業にふさわしい資本金額というものもあります。業種、業界、他の取引先との関係を勘案した上で資本金の額を決めることになります。

また、資本金の金額で税金の額や適用される税法が変わってきます。たとえば、地方税の均等割法人税の交際費規定(2(1)参照)、消費税の納税義務の免税規定や事業税の外形標準課税などです。

会社設立の時の登録免許税の削減目的だけで、資本金を小さくしたり、株式会社ではなく合同会社を勧めたり、はたまた、初期投資資本を資本金と資本準備金に分けたりといった、先を見通さないアドバイスにも何度か出くわしました。後々回復のために面倒な手続きが必要となったり、実際に損をしたりするようなアドバイスは止めてほしいものです。 

3.会社設立直後の税務届出書

会社設立後に、税務署などに会社設立の届出書や青色申告書の承認の申請書、消費税の各種選択届出書を提出する必要があります。こうした税務の届出書は、税理士の専属業務であり、行政書士司法書士は代行できません。それがわかっているので、彼らが書類の作成はしませんが、「こうした書類を作って自分で提出してください」といった見本を渡しているケースも多く見てきました。

会社側で適切に書類を作成して期限までに提出すれば問題は発生しませんが、往々にして記載事項に間違いがあったり、提出期限に遅れてしまうことも少なくありません。

青色申告書の承認の申請が遅れると、欠損金の繰越控除ができなくなります。この場合、「初年度は赤字で、2年目から黒字だが、初年度の欠損金との相殺で納税はゼロ」という特典を受けられなくなってしまいます。

※他にも、会社設立のタイミングと最初の決算日との関係で、提出期限が変わってくるので、要注意となる書類がたくさんあります。

4.初年度の会計・決算

会社を設立した後は、とにかく本業のビジネスの立ち上げに突っ走ります。本国から指示されない限り、経理なんて後回し、運転資金さえ回っていればOKです。

が、“ハッと気づくと、もうすぐ決算期末で様々な会計報告書の指示が本国から送られてきて大慌て”という相談も何回かありました。

会社設立で行政書士にサポートしてもらい、それっきりというのが典型的でした。

“税務届出書の提出期限遅れ”はあるは、“会計書類はゼロから作成しなければならない”はで、年末年始がなくなってしまうよう事態を避けるためにも、当初から会計事務所の関与がおススメです。

 

日本からの中古車輸出ビジネスにおける消費税還付の相談

海外から日本の税金に関する問い合わせで比較的多いのが、「日本から中古車を輸入して途上国で売る際の日本の消費税をどうしたら還付できるか?」というテーマです。スリランカニュージーランドパキスタンカリブ海諸国あたりからの問い合わせが多いです。そういえば、日本の中古高級時計を大型質店で買い入れるという話もありました。

Japanese consumption tax refund - export second handed cars and watches

本来、日本からの輸出物品には消費税が課税されないことになっています。輸出免税としてゼロパーセントの消費税なのです。しかしながら、実際には、日本からの請求書に、なぜか8%の税金がしっかりとオンされています。

そこで、「税金がかからないはずなのに、なぜ消費税を付加して請求されるのか、どうしたら還付してもらえるのか?」という問い合わせが少なくない、という話につながります。

<目次>

1.日本車は丈夫なので中古車海外輸出ビジネス(特に解体)は儲かる!

「中古車輸出前年比19.1%増 UAEが2ヶ月連続で首位」

www.goonews.jp

によると、「日本中古車輸出業協同組合がまとめた7月の中古車輸出台数は、前年比1万7140台増の10万6865台となった。仕向け国別では、アラブ首長国連邦が2か月連続で首位となった。同国は、前年比1.9%減の1万622台。2位ニュージーランドは、前年比4.0%増の1万262台となった。3位はミャンマーで、輸出台数は前年比で28.6%増加した。 
全体の前年比では、19.1%の増加。上位20カ国で伸び率が高かったのは、キプロス(2.6倍/361台→946台)、タイ(2.3倍/406台→927台)、パキスタン(2.3倍/3582台→8137台)、で、アジア、ヨーロッパ勢などで輸出台数を伸ばした。その一方で、シンガポールグルジアなどが大きく減少した。前月(6月)比較では、全体で8.2%の減少となった。」ということです。

実際に、中古車を海外に輸出していた元クライアントさんの話では、順調に台数を裁くことができれば、かなり儲かるといことでした。このクライアントさんは、リーマンショックのあおりで本国での銀行借り入れが縮小されたため、日本でのビジネスも縮小せざるを得なくなり、一時日本からの購入をやめました。その際に当方のクライアントさんではなくなりました。日本の中古車市場で大量に車を仕入た車を船積みまで保管するためヤード(=駐車場)を購入し、その後解体のための自用地も購入する計画でしたが、残念でした。中古車関係でも、解体ビジネスが一番儲かるのだそうです。日本で解体すれば、バラシて使える部品だけを輸出できます。解体しなければ車ごと運ばなければなりません。コンテナ1本いくらという船賃なので、車本体を縦や横に切断して詰めるだけ積み込むのですが、部品にバラシタときほど効率よくありませんからね。

2.輸出に係る消費税は免税が原則

適正な手続きを経た輸出物品は消費税がかかりません。輸出免税といってゼロ税率が適用されるので、輸出する物品の請求に際しては消費税が付加されないはずです。

No.6551 輸出取引の免税|消費税|国税庁

しかしながら、実際には、消費税が上乗せされているケースが少なくないようです。

その理由としては、経験からいうと、「日本側で輸出を扱う人(個人が多い+小規模個人会社) が、消費税申告をして還付してもらう手続きをしていない」というところにあります。そのため、海外の業者(=当方に質問してくる側)が日本の仕入れ先(=輸出業者)に「輸出免税で消費税ゼロのはずだから8%分は返してくれ!」といっても対応してもらえない現状になってしまっているのです。

中古車輸出の際の必要書類と手続き:日本 | 貿易・投資相談Q&A - 国・地域別に見る - ジェトロ

<原因と背景> 

※下記のような理由により、現実には、「輸出は免税」が通じない取引の世界となっているのが実態です。ある程度の事業規模が見込めないとなかなか難しいビジネスです。

①日本から中古車を買う側が、日本に子会社を設立(=国内で自動車の中古市場に参加するには、警察に古物商の認可申請が必要)して消費税の確定申告をすれば還付されるが、その場合、法人税等の申告もしなければならない。子会社の維持費を賄うためには、その分の固定費を回収できるだけの売上利益が必要となる。そこまでの事業規模は見込めない。
②日本に子会社を持たない場合、中古車を直接調達できないので、知人(=日本人女性と結婚し、古物商の認可を得た同国人から購入代行してもらうケースが多い)から購入し、輸出してもらうことになる。本来は、その知人から輸出として購入する際には輸出免税扱いなので消費税はかからない。しかし、その知人は、個人事業としている者が多く消費税の申告していないため、代価は消費税込みの金額となってしまっている。

<消費税負担の有無で大きく変わる利益率>

※具体的な数字で流れを説明します。
中古車マーケット(=自動車オークション)にて20万円でトヨタ車を買います。国内での購入なので、8%の消費税がかかり代金は21.6万円となります。オークション費用やリサイクル費用などの諸経費、さらに日本から輸出の船賃や本国での輸入代金として1台あたり10万円かかったとします。合計原価は30万円+消費税1.6万円です。
これを本国にて40万円で販売したとします。消費税を負担したままだと利益率は21%、消費税の還付を受けると25%です。
消費税の還付を受けられるか否かで利益率が大きく変わってくるのです!!

3.消費税申告をとして輸出物品に消費税を上乗せしなければ注文が殺到するかも!?

<原則:輸出に消費税はかかりません>

輸出される物品(中古車)に消費税はかかりません。でも、オークションで購入する際は国内の売買なので、消費税がかかります。ただし、輸出免税なので、消費税の確定申告をすれば消費税は還付されます。
しかしながら、上記2②で記載した小規模業者が多いため、立ちはだかる現実の壁となっています。 

JETRO日本貿易振興機構の貿易・投資Q&A「Q輸出における消費税の免税と還付手続きについて教えてください。」でも、還付手続きについて説明がされています。
「A. 国内取引では6.3%の消費税(国税)と1.7%の地方消費税、合わせて8%の消費税がかかります。しかし、輸出取引にあたる場合は、消費税が免除されます。これは消費税は国内で消費されるものに対して課税するが、外国で消費されるものには課税しないという考えに基づくものです。これを輸出免税といいます。
 輸出免税はモノの輸出以外にも、国際輸送、国際電話など、外国に向けて行うサービスに対しても適用されます(消費税法第7条)。
 税務署に届け出た消費税の課税事業者は、輸出のための仕入商品に課せられた消費税、および輸出業務や事業のために支出した諸経費への国内消費税を、所轄の税務署長に申請し還付を受けることができます。輸出取引の区分に応じて輸出許可書等の証明書が必要です。」
詳細は、輸出時の消費税:日本 | 貿易・投資相談Q&A - 国・地域別に見る - ジェトロ

<日本の輸出業者が儲かるチャンス!>

中古車輸出のカリブ海国のクライアントさんのサポートをしていた時分、下記のようなセミナーで勉強してみようかとも思いました。現実にはこうした商売には向かないので実行する予定は皆無でしたが。。。

biz.tradecarview.com

輸出に際してそのまま8%の消費税を上乗せしている業者が多い現状では、自身が輸出免税ゼロ%の請求をする業者として事業を行えば、繁盛するかもしれません。中古車を見る目がある方は、ご一考かも!?

本国から出向外国人の確定申告とローカル採用外国人の年末調整、社会保険・年金

外資系会社の日本子会社を設立するに際して、代表者となる日本の社長は、通常、(1)本国から社内の人を日本に出向させる、(2)業界に精通した日本人を採用する、(3)業界に精通した日本に住む外国人を採用するの3つのいずれかとなります。

例外的には、税務上の目的から、日本子会社スタッフを登記上の代表者とはせず(=取締役として登記せず、社長とも呼称しない)、Country Manager等の呼称を使って日本拠点の代表であるということを対外的に示している場合もあります。

本稿では、外国人を日本子会社の社長に据えるに際して、税務や入国管理法の観点から留意すべき事項について記します。

<目次>

1.一番大事なのは、就業ビザ

外国人が日本で働くためには労働許可証(=就業ビザ)が必要です。就業ビザには、企業内転勤、技術・人文知識・国際業務など14の分類があります。

就労や長期滞在を目的とする場合 | 外務省

親会社から出向で日本子会社に送り込まれる場合は企業内転勤ビザもしく経営・管理ビザを申請します。いずれの種類のビザになるかは、各社の状況(=出向者の出向元企業における在職期間や日本子会社への投資額等)により変わってきます。

2人目以降もしくは、日本国内で他の企業に勤務している者を雇う場合には、技術・人文知識・国際業務ビザが多いです。

※ビザ申請は、こうした業務を専門とする取次申請行政書士(=Immigration Lawyer)に相談・依頼します。

www.gyosei.or.jp

なお、配偶者が日本人である場合には、配偶者ビザとなり、就業に制限はありません。

2.出向外国人の課税と所得税の確定申告

(1)出向外国人への給料の支払い方

出向者(Expatriate)への給与支払は、国外払い給与として本国の銀行口座に振り込まれる給与と日本での生活のために日本国内の銀行口座に振り込まれる国内払い給与の2つがあります。

国外払い給与はその国の税法規定によって扱われますが日本の所得税の規定による源泉徴収は対象外です。国内払い給与のみ支払い時に日本の所得税の規定により源泉所得税が給与支払者によって源泉控除されます。※国外払い給与は支払い時の源泉徴収はありませんが、所得税法の規定に従い、日本で課税されます。

(2)現物給与も課税の対象

日本での住まいが社宅として貸与される場合、全額会社負担であれば、家賃の100%が経済的利益の供与として給与に上乗せして課税対象とされます。

日本の所得税法に、所定の計算による本人負担分を徴収している場合には経済的利益とされないという規定があります。通常は、この規定が適用できるような社宅規程の定めとそれに従った運用をし、課税所得が増えないような対策をします。

No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき|源泉所得税|国税庁

No.2600 役員に社宅などを貸したとき|源泉所得税|国税庁

社宅に付随する水道光熱費や電話代等は個人の負担となりますが、これを会社負担としている場合は全額経済的利益の供与として扱われることになります。

同様に、日本での税金(所得税や住民税)を会社が負担する場合も、経済的利益として課税の対象に上乗せされます。

(3)出向外国人駐在員の課税対象

1)日本に初めて入国してから5年以内の人

非永住者(Non-Permanent Resident)として日本国内源泉所得のみが課税の対象とされます。

日本国籍がなく、かつ、過去10年以内の間に日本国内に住所又は居所を有する期間の合計が5年以下である個人を非永住者といいます。そのため、たとえば、過去に留学などで日本に住んできた期間があればその日数も勘案して判定することになります。

2)日本に初めて入国してから5年超の人

永住者(Permanent Resident)として全世界所得(=国内源泉所得+国外源泉所得)すべてが課税の対象とされます。

3)国税庁の英語サイト

Information about Income Tax l National Tax Agency

(4)確定申告

国外払い給与や経済的利益がある場合には、年末調整だけでの課税関係の精算とはならず、確定申告をしなければなりません。

No.12018 Wage earners who must file a final tax returnwww.yamajo-tax.com

3.ローカル採用外国人の課税と所得税の精算

(1)ローカル採用外国人への給料の支払い方

通常は、日本人である他の従業員と同じ扱いと待遇です。

(2)所得税の精算

給与の収入金額が2,000万円以下であれば、年末調整により課税関係が清算され、確定申告は不要です。

確定申告が必要な方|確定申告に関する手引き等|国税庁

もちろん、医療費控除やふるさと納税の手続きのために確定申告することもできます。

No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|所得税|国税庁                            

税理士が自ら実践する!ふるさと納税の上手な活用法: H27年税制改正対応版 Kindle版

4.社会保険

(1)社会保険加入の義務

出向者や外国人・日本人の区別なく、国内払い給与があれば、社会保険料の支払い対象となります。

(2)年金保障協定がある場合

出向者の出向元国と日本国との間に年金保障協定があれば、本国と日本の二重払い回避や年金加入期間の通算ができる場合があります。

社会保障協定|日本年金機構

実際の適用や申請手続きは、社会保険労務士に相談・依頼することになります。

社労士とは|全国社会保険労務士会連合会

なお、 ローカル採用の外国人にはこの年金保障協定は適用されません。

www.japantimes.co.jp

(3)帰国後の年金の還付申請

外国人が日本で支払った年金は、帰国後2年以内であれば脱退一時金を請求すことができます。すなわち、日本国籍を有しない方が、国民年金、又は厚生年金保険の被保険者資格を喪失し、日本を出国した場合、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に脱退一時金を請求することができます。

短期在留外国人の脱退一時金|日本年金機構

もしくは、支払機関等の条件が合えば、そのまま受給資格が満たされる時まで待って年金を受給することもできます。

なお、脱退一時金の還付に際しては日本国の所得税法の規定によって源泉徴収がされる場合があります。これは確定申告をすることで一部もしくは全額の取戻しも可能です。

 

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外国親会社がもとめる日本子会社からの会計報告のレポート

外国法人の日本子会社は、毎月、親会社の(もしくはグループ会社を統括する)コントローラーに会計報告を提出することを求められます。

本稿では、経理専担のスタッフを置く必要のない小規模な日本子会社(社長を含めせいぜい従業員が10名くらいまでの規模)が、毎月報告すべき事項、決算に際して求められる作業につき、一般的な指針として説明します。

もちろん、親会社のお国柄によっても、要求の厳しさはまちまちですが、標準的な流れとしてご参照ください。

前提として、

・外国法人(親会社の資本金は10億円)の日本子会社(株式会社)で資本金が1千万円

・会計期間は1月1日~12月31日

経理専担のスタッフはいない

とします。

<目次>

1.経理専担のスタッフを置かないメリット

小規模の外資系会社(=日本子会社)に経理専担のスタッフを置く必要はありませんし、金銭的にも置く余裕はないはずです。

日本の拠点を作り、日本でビジネスを立ち上げた当初は、社長一人というケースも少なくありません。その後徐々にスタッフを採用して業務を拡大して行きますが、まずは営業担当者の採用が優先され、管理・総務的な仕事は社長が兼務しながら、外部専門家に依頼することになります。

英語ができて、経理も任せられる人を採用するとなると、最低でも年俸500万円程度の求人となります。英語が必要というだけで経理ができる人たちの相場の2倍となります。会社の規模が小さいうちには、親会社から求められる会計報告も必要最低限で済みますので、外部依頼で十分です。

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日本での事業規模が大きくなり、顧客の数も増え・スタッフの数も増えると、日々の請求書等の発行や経営レポート・予実比較・事業計画書の作成や報告等々、外部依頼では対処しきれない業務が必要となります。経理専担スタッフの採用はそうした段階になってからで十分です。

小規模会社のお金周りから会計報告まで社長が関与することは、それまで営業活動しかしてこなかった方にとって最初は大変なようです。しかしながら、資金の流れと経理の数字まで頭の中に入った状態で、営業の代表というよりも経営者として親会社の経営陣と話ができることになり、親会社および社長自身にとっても良い作用として働いているようです。 

2.従業員の経費精算

(1)普段の小払い

経理・総務などのAdmin(管理業務)は最小限にします。そのため、小払いのPetty cash(小口現金)などは持ちません。会社に現金があると、その受払の都度、帳簿に記帳し、現金残高も毎日実査(=手で数える)必要があります。そんな無駄は排除です。

そのため、随時の小払い(たとえば、郵便切手代金や宅配の代引き料金など)は従業員の立替とし、他の交通費の精算と一緒に、月一回の精算報告で、給料とともに振込まれることになります。ここでは会社の現金は一切動きませんので、記帳や現金実査は不要です。

(2)旅費交通費等の精算

交通費や諸経費はスタッフ各人が立て替えて、月末までに発生した分をまとめて翌月初頭に社長に報告します。社長が承認すればその月の給料とともに個人宛に振り込まれます。

経費精算は、親会社のコントローラーが確認する場合もあるので、親会社のフォーマットをそのまま使い、それに各人が入力します。使ったお金の使途は本人しかわかりませんので、おおまかな経費区分ごと本人に記載してもらいます。

なお、この際、日本の消費税や法人税の必要記載項目も充足していなければなりませんので、経費の支払先や購入日、相手先との関係や人数なども記入します。レシートの原本もこの精算書の裏に貼付するか別紙として添付します。

No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿の記載内容|消費税|国税庁

接待飲食費に関するFAQ|パンフレット・手引き|国税庁

親会社によっては、内部統制の観点から、社長の経費精算は親会社のコントローラーの承認が必要な場合もあります。こうした承認のシステムは、親会社の指示に従います。 

3.毎月の会計報告

(1)試算表の報告

外資系企業の場合、当月の会計報告は、翌月5日~10日ころまでに行うことが求められます。親会社の連結財務諸表作成のタイミングにもよるので、各社で違いはありますが、大体この辺りまでに報告しなければなりません。

期中は、正確さよりもスピードが求められますので、期限に遅れないことが絶対要件です。

期中であっても売上や仕入、毎月発生する固定的な経費については発生主義での計上が必要です。減価償却費などは月次平均値の計上となります。相手先が月末に帳簿を締めてそれから請求書が送られてくる場合は、支払いベースでの経費計上となりますが、これくらいはOKです。

いずれにせよ、親会社の経理方針に従います。

(2)資金明細の報告

会計上の数字と実際のお金の動きにはずれが生じます。自社の売上は請求書を送ってから1~2か月後の入金となりますし、他社への支払いは請求書が届いたてから半月~2か月後の支払いとなります。

親会社のコントローラーは全世界のグループ会社の資金繰りも管理しますので、実際のお金の動きの報告も月次報告の一つとされる場合も少なくありません。

銀行の取引明細書やExcelなどで作った支払一覧(=もちろん英語で作成)を毎月報告することになります。Payment service / Financial Administrative services

(3)資金繰りや予実対比の報告

親会社によっては、翌月のCash Flowの予定表を提出させ、月末にはその予実比較をした実績表の提出を課してくるところもあります。

同様に、会計報告で、予算との対比を求められたら、それも作成しなければなりません。 

4.1年分のまとめの会計報告は1月2日が期限!?

 欧米人はクリスマスが最大の休みとなり、12/24-12/27までは全く動かない会社が多いです。(中国系は旧正月を大事にしますので、2月の頭に1週間不在となります)

しかしながら、クリスマスが終わると、1/1だけ休みで、1/2からは通常業務です。

12/31に前期の会計年度が終わっているので、1年間の世界全社のグループの会計(連結決算)をまとめるために、子会社には1/2までに12月分を送ってくるようにという指示のある会社は少なくありません。

12月は、1年分ができるだけもれなく入っていなければならないので、確定していない経費も何も見積りで計上します。1月の頭に1年分のグループの会計の数字が固まると、それ以後の修正はNG(厳禁)となります。 

5.日本子会社の会計や税務はどうでもよい?!

(1)親会社の会計方針に従う

外資系企業の経理は、日本の会計基準や税法基準を採用するというより、本国での会計基準に則った会計方針を採用していることが多く、その基準と日本の税法との調整が法人税の申告書作成における大きな特徴といえます。

 例えば、減価償却で、日本の税法基準では8年で定率法(選定しない法定の場合)であるのに、本国での基準では36ヶ月の定額法といった場合、当初は減価償却超過額の損金不算入が発生し、途中からその認容が始まります。

(2)日本の税務はどうでもよい

大抵の場合、親会社の規模から考えると、日本子会社の規模は売上も利益も3桁も4桁も違います。そのため、親会社から見ると日本の税金の高い安いは眼中になく、全世界ベースで一番節税となるプランを採用しています。また、ビジネス優先となるため、日本の税法規定ではこっちが有利だからこちらの方法を選択しようといった発想にはなりません。

(3)日本側では税法に則った申告が必要です

親会社が日本の税法を無視するといっても、日本子会社は税法に則った申告をしなければなりません。会計の数字は早々に占められて動かせませんので、税務申告書で税法に則った調整が行われることになります。

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Japanese  corporation tax for foreign affiliate company.

(4)内部監査や法定監査がある場合も

日本の子会社自体は、公認会計士の法定監査が必要になるケースはほどんどありません。原則として、会計士監査が必要となるのは資本金5億円以上、負債200億円以上の場合です。

そのため、小規模な外資系会社に自社の法定監査が必要とされることはありませんが、親会社の法定監査の一環で国際会計事務所の監査が入る場合もあります。

また、内部統制がきちんとできているかどうかの確認で、親会社本社から、内部監査人がやってきて内部監査を受けるというケースもあります。その場合も、親会社が決めたルール通りになっているのかがチェックされ、日本の規定はほとんど考慮されません。

(5)労働法規には敏感?

日本の規定をことごとく無視する外資系企業ですが、雇用関係の法規はきちんと守ります。

ただし、突然の馘(=解雇)もあります。このときもきちんと日本の法規に則って周到に準備したうえで実行されています。

 

※親会社の方針を日本の規定に修正しながら各種規定を整備しておくことになります。

 

※お問い合わせは下記フォームでお送りください。

(初回問い合わせは無料です。具体的な相談案件となりましたら報酬が発生します。)  

How to set up a Japan Representative office. 外資系企業による日本進出の第一歩、駐在員事務所の設置

外国法人が日本でビジネスを行う場合の事業形態につき、日本市場向けの事業拡大の段階ごとに要点をまとめています。

①本国からの輸出による販売→②代理店業務委託(ここから本格的に日本進出)③駐在員事務所設置し feasibility study → ④子会社(Subsidiary)もしくは支店(Branch office)設置による事業活動開始という段階を踏みます。

③の実現可能性調査の段階で自社の社員を置いて2~3年日本市場での事業の見込みを再度調査してから④に進む場合もありますし、②や③の段階も経ずに、いきなり④で事業活動を開始する場合もあります。

自社にとってどういった形態が適切かの判断は、各社のビジネスの実態(いままでの経緯やこれからの見通し)によって変わってきます。一概にどういった方法がよいとは言えません。現状でのベストな選択は何かということは、それぞれに事情を伺ってからの提案となります。

本稿では、③の駐在員事務所の設置に関して、具体的手続き、および設置後の運営と、本国への報告の流れを説明します。

<目次>

1.駐在員事務所は事業活動ができない

一般的に外国企業は日本国内に情報の収集や市場調査のための駐在員事務所を開設することができます。

外国為替管理法上、このような事務所の開設は、承認・届出・登記などの手続きの必要はありません。

(ただし、駐在員事務所が営業活動を行うようになると、税務上PE(恒久的施設)となり、納税義務の発生および外国為替管理法上の届出が必要となります。)

<税務上注意すべき重要な点>

日本に進出してくる外国企業が日本での税金がどう適用されるかは相手国と日本との租税条約の有無によって変わってきます。一般論として、OECD条約モデルで見てゆきます。特に注意してほしい箇所を強調して色付けをしました。緑色の字が課税対象とはならない駐在員事務所にあたる活動赤色の字が課税対象となってもはや駐在員事務所とは言えない活動です。

**********  OECD条約モデルより必要箇所を抜粋 **********

第5条 恒久的施設
1.「恒久的施設」とは、事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っている場所をいう。
2.「恒久的施設」には、特に、次のものを含む。
a)事業の管理の場所、b)支店、c)事務所、d)工場、e)作業場、f)鉱山(…略…)
3.建築工事現場(…略…)。
4.1から3までの規定にかかわらず、次のことを行う場合は、「恒久的施設」に当たらないものとする。
a) 企業に属する物品又は商品の保管、展示又は引渡しのためにのみ施設を使用すること。
b) 企業に属する物品又は商品の在庫を保管、展示又は引渡しのためにのみ保有すること。
c) 企業に属する物品又は商品の在庫を他の企業による加工のためにのみ保有すること。
d) 企業のために物品若しくは商品を購入し、又は情報を収集することのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。
e) 企業のためにその他の準備的又は補助的な性格の活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。
f) a)からe)までに掲げる活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。ただし、当該一定の場所におけるこのような組合せによる活動の全体が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。
5.1及び2の規定にかかわらず、企業に代わって行動する者(6の規定が適用される独立の地位を有する代理人を除く。)が、一方の締約国内で、当該企業の名において契約を締結する権限を有し、かつ、この権限を反復して行使する場合には、当該企業は、その者が当該企業のために行うすべての活動について、当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとされる。ただし、その者の活動が4に掲げる活動(事業を行う一定の場所で行われたとしても、4の規定により当該一定の場所が恒久的施設とされない活動)のみである場合は、この限りでない。
6.企業は、通常の方法でその業務を行う仲立人、問屋その他の独立の地位を有する代理人を通じて一方の締約国内で事業を行っているという理由のみでは、当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとされない。
7.一方の締約国の居住者である法人が、他方の締約国の居住者である法人若しくは他方の締約国内において事業(恒久的施設を通じて行われるものであるか否かを問わない。)を行う法人を支配し、又はこれらに支配されているという事実のみによっては、いずれの一方の法人も、他方の法人の恒久的施設とはされない。  

**********  OECD条約モデルより必要箇所を抜粋 ここまで **********

日本国内で情報の収集や市場調査などの補助的な活動であれば、駐在員事務所でOK。これには今後、日本で事業活動を行っていけるかどうかのfeasibility study (=実現可能調査)の段階が含まれます。

一方、本国の企業の名で契約を締結する権限を有し、かつ、この権限を反復して行使する場合には、もはや駐在員事務所とは言えず、「PE(Permanent Establishment)=恒久的施設」として事業活動を行っているので、「法的にも登記して、税金を納めてください」ということになります。

<怖いのはPE認定されて追加税金やペナルティが発生すること>

やってはいけないことで、気を付けないとよくやってしまいがちな行動は、「日本事務所のスタッフが、日本国内で、本国企業の名において契約を締結する権限を有し、かつ、この権限を反復して行使すること」です。

こうした活動をしながら、駐在員事務所だから日本の税金申告は不要として申告等をせずにいて、後日税務当局からPEと認定されれば、追加税金課税と無申告等の罰金が科されることになります。

本国の会社の資本金が大きい場合(※)には、特に思わぬ大きな税金がかかってくることになりますので、常にPEに該当しないような活動にとどめておかなければなりません。

(※)会社の資本金等の大きさで一律に課税される均等割という地方税があります。

 f:id:point-get:20180314125145j:plain法人住民税均等割:東京都

また、法人税でも、大法人の場合は交際費の経費算入が制限されるなどの不利な規定もあります。 

2.駐在員事務所は法務局への登記が要らない

PEに該当しないということであれば、法務局への登記は不要です。

3.駐在員事務所は人を雇える

日本国内で人を採用して補助的な活動をしてもらうための駐在員事務所です。人の採用にあたってもいくつかの留意点があります。 

(1)誰でも雇えるか?

VISAの問題がなければ誰でも雇えます。

本国からスタッフを派遣する場合は、労働許可証を取らなければなりません。駐在員事務所の場合には、事務所の賃貸の実在性や資産用件等難しくクリアーしなければならない課題もありますが、どうしても本国からスタッフを派遣して活動してもらいたい場合には、事前にビザの専門家(=取次申請行政書士:Immigration Lawyer)の方からのアドバイスを受けながら、準備が必要になります。

日本人のローカル採用や外国人でも奥さんが日本人で配偶者ビザによる労働制限がない場合は、上記の手続きは不要です。 

(2)給料を払えるか?

給料の払い方は、①日本国内で駐在員事務所が給与支払者となる、②本国から従業員の口座に外国送金をするの2つの方法があります。

①駐在員事務所が給料を支払うときは、所轄の税務署に「給与支払事務所等の開設届」を出し、毎月給料から所得税を厳選し、翌月10日までに国に納付することになります。年末には所得税の精算のための計算である年末調整をし、翌年1月末までに従業員が1月1日現在住む市町村に給与支払報告書を提出しなければなりません。その報告を受け、各地方自治体から各人の住民税が決定・通知されますので、翌年6月からは住民税の特別徴収・納付も給与支払者の義務作業に加わります。

②従業員の銀行口座に国外から給料が直接振り込まれる場合には、毎月の源泉徴収や住民税の特別徴収は不要です。従業員本人が所得税の確定申告・納付をし、住民税の納付も自分で行うことになります。

(3)社会保険に加入できるか?

法人の事業所は社会保険への加入は義務となっています。外国法人の日本駐在員事務所もこれに該当しますので、加入は義務です。

しかしながら、給料の支払い方が上記の②本国から従業員の口座に外国送金をする場合、社会保険料の算定基礎となる数字(=国内払いの給与額)がゼロとなりますので、実質的に加入できません。社会保険加入の態勢を整えるためには、給料は①日本国内で駐在員事務所が支給することになります。 

社会保険制度加入のご案内|日本年金機構

↑ 日、英、中、韓、スペイン、ポルトガル6か国語のパンフレットがあります。

(4)労働保険(労災保険雇用保険)はカバーされるのか?

1)従業員が1人しかいない場合

法人といえども、駐在員事務所の場合、労働保険加入にあたっては、事務所代表者がみなし事業主として手続されることになります。そのため、駐在員事務所の従業員が代表者1人しかいない場合には、加入できません。

2)従業員が2名以上いる場合

従業員が2名以上であれば、代表者をみなし事業主として、駐在員事務所が労働保険に加入できます。この場合において、代表者とそれ以外の従業員で加入できる(=本来は義務)保険が違ってきます。

労働保険は、労災保険雇用保険を総称した言葉です。

通勤時や職務中の災害には労災保険が適用されますが、これは代表者を含めて全員が対象です。ただし、代表者は特別加入という制度により、給与をもとにした数字とは違う保険の上限もあります。

雇用保険は、代表者以外の人にのみ適用され、みなし雇用主である代表者は一切加入できません。 

4.駐在員事務所は銀行口座を持てない

駐在員事務所は、法務局に投棄されないため法人格がないので、銀行口座を持つことができません。

給料の支払いは、代表者の個人口座を経由するか、外部の会計事務所に支払代行業務を依頼するのが一般的です。また内部統制の観点からも外部委託がおススメです。

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なお、銀行によっては、本国の親会社が非居住者口座を持つことができるサービスを提供しているところもありますが、毎月の維持管理用が高く一般的ではありません。 

5.駐在員事務所の申告や報告義務(対日本政府・自治体)

駐在員事務所が行わなければならないCompliance法令遵守)業務 は、給与支払者である場合の「源泉徴収義務」、1年間の源泉所得税等の支払いをまとめた「法定調書」、従業員の居住自治体への「給与支払報告書」の提出などです。

なお、事業に使っている償却資産がある場合は、「償却資産申告書」も提出しなければなりません。

6.駐在員事務所の本国への会計報告

駐在員事務所に該当すれば、日本では会計帳簿作成の義務はありません。本国から何らかの報告が求められる場合にはそれに従います。

 

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(初回問い合わせは無料です。具体的な相談案件となりましたら報酬が発生します。)