外国法人が日本で事業(営業活動)を行う際には「子会社(Subsidiary)」もしくは「支店(Branch office)」のいずれかの登記が必要です。
「駐在員事務所(Representative office)」のままでは営業活動はできません。
子会社もしくは支店のどちらの形態が適切かの判断は、各社のビジネスの実態によって変わってきます。
しかしながら、一般的には、子会社の方が運用が簡単です。
実際には、支店形態でビジネスを行うのは、銀行などの法律で決められた許認可が必要な業種、もしくは、租税条約の適用で支店形態の方が税務上有利になるビジネス(たとえば、インド法人がソフトウェア開発を日本の顧客に出向いて行う場合など)に限られます。
本稿では、子会社設立の手順から、事業を始めるための銀行口座の開設までの一連の流れを外資系クライアント100%の税理士山條隆史が解説します。
<目次>
1.子会社とは
(1)子会社とは日本の法律で設立された会社
子会社(Subsidiary)は日本の会社法を根拠法律として設立された会社です。
(2)会社の種類
株式会社、合同会社、合名会社、合資会社の4種類があります。外資系法人の場合は、ほとんどが株式会社もしくは合同会社で設立します。
①株式会社(KK: Kabushiki Kaisha)
親会社にはJoint Stock Companyと説明すればわかりやすいかと思います。米国企業が親会社である場合を除き、この形態が一般的であり、おススメです。
(設立時の登録免許税節約の観点から合同会社を勧める専門家-特に司法書士-もいますが、運用に自由性がある分、外資系の日本子会社としてはお勧めできません)
②合同会社(GK:Godo Kaisha)-日本版LLCとも呼ばれます
親会社にはJapanese LLCと説明すればわかりやすいかと思います。
平成18年(2006年)の会社法により新しく設けられた形態である合同会社は、日本版LLC(Limited Liability Company)とも呼ばれ、「有限責任」、「(機関がシンプルなので)迅速な意思決定」、「利益や権限の配分を自由に設定(=内部自治原則)」等のメリットがあり、小さなビジネスにとっては使い勝手がよい事業形態と言えます。
一方、デメリットとしては、株式会社に比べて信頼性が低く見られがち、株主総会や決算書の承認手続きなどが不要なので何となく内部手続きにもしまりがないなどが挙げられます。
(3)親会社が米国企業の場合
①米国の日本子会社は合同会社形態が多い
米国企業が親会社である場合には、合同会社形態が必要かどうか、米国税法の観点から親会社に確認してもらう必要があります。米国ウォルマートの日本法人である西友も、米国ケロッグ社の日本法人の日本ケロッグも、会社の形態は“合同会社”です。
②親会社の事情で合同会社が選ばれる理由
米国の会社が日本の子会社の会社形態として合同会社を選ぶ理由の一つに、米国本国における税務上のメリットがあります。
アメリカの税法には、チェック・ザ・ボックス規則というものがあり、要件に合えば、日本の子会社所得をパススルー課税(企業体には課税されずその構成員の所得として課税する)を選べる制度があります。(注:日本の合同会社は普通に法人税が課税されます。日本での課税がなくなるわけではありません。)
米国税制で合同会社はパススルー課税の対象外として列挙されていないためアメリカ親会社側で税制上のメリットが生じます。
効果としては、立上げ初期時の欠損を支店と同様に米国株主の利益と相殺できることにあります。実際に支店登記すれば本店の資本金で均等割課税されるのでその分不利となりますが、パススルーであればそれを避けて米国でメリットを享受できます。
国外進出時に検討すべき大事なことの一つです。
2.株式会社設立の手順
(1)事前準備
・株主(親会社)が決めることは、基本事項の決定です。会社名、 役員、事業目的、 会社住所、 払込資本金・授権資本、 会計期間=事業年度などです。
・類似照合の調査、定款の作成は、司法書士が行います。
・会社印・代表取締役印等、必要な印鑑を発注します。
(2)会社の登録
「発起人会→定款の認証→・・・→・・・」の一連の手続きは、専門家である司法書士に依頼します。
以前は、資本金払込証明書を銀行に作成してもらってそれを証明書として設立をする手続きを取っていました。しかしながら、いまは、どこの銀行も面倒な手続きとして受けてくれません。そのため、通帳を証明書として活用していますが、実際の作業としては担当する司法書士が全部やってくれます。
なお、以前は、日本の会社の取締役(=役員)は、日本在住の個人(=国籍は問わない)でなければなりませんでした。
しかしながら、法務省の「平成27年3月16日民商第29号通知」で、内国会社の代表取締役のうち,最低1人は日本に住所を有していなければならないという従前の取扱いは廃止され,代表取締役の全員が日本に住所を有しない内国株式会社の設立の登記及びその代表取締役の重任若しくは就任の登記について,申請を受理する取扱いとなりました。よって、国外親会社の役員のみで日本子会社の役員を構成することも可能となっています。
ただし、これにはメリットとデメリットがあります。こちらの解説をご参照ください。
3.会社設立後に必要な届出書
(1)日本銀行への届出
外国為替管理法による届出を設立の翌月15日までに日本銀行経由で関係大臣に届出しなければなりません。
報告書様式および記入の手引等(2014年以降適用) : 日本銀行 Bank of Japan
(2)税務署関係への届出
・[手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出|源泉所得税関係|国税庁
・その他必要な届出書-会社ごとに必要な書類は違います。税金の専門家税理士に相談してください。
(3)社会保険の加入
従業員を採用すると社会保険や労働保険にも加入しなければなりません。手続きは社会保険労務士に依頼するとスムーズです。
↑ 日、英、中、韓、スペイン、ポルトガル6か国語のパンフレットがあります。
(4)労働保険(労災保険・雇用保険)はカバーされるのか?
1)従業員が1人しかいない場合
人を採用すると労働保険(労災保険・雇用保険)への加入義務ですが、従業員が代表取締役である役員1人しかいない法人の場合、労働保険(労災保険・雇用保険)に加入することができません。2名以上となった段階で、手続きできるようになります。
2)従業員が2名以上いる場合
従業員が2名以上であれば、労働保険(労災保険・雇用保険)への加入となります。政府管掌の労働局で手続きをする労働保険の場合は、取締役である役員は加入できません。社会保険労務士の団体が管理している労働保険事務組合であれば、役員も特別加入制度により一定の労働保険に加入することができます。
なお、取締役は、雇用保険には一切加入することができません。
4.銀行口座の開設
子会社設立手続きの中での最難関が銀行口座の開設です。
マネーロンダリング防止の観点から国の指導が厳しくなり、各銀行とも簡単には口座開設をさせてくれません。たとえば、会社設立後登記簿謄本を持参し口座開設申請をする→銀行内(本店もしくは支店)の審査→1週間後に事業内容に関する説明の面談→(再度銀行内審査で)さらに1週間後にようやく口座開設といった手順で2週間超かかると覚悟しておかなければなりません。
とはいえ、しっかりとした事業計画があり、実際にきちんとしたビジネスを行える会社であれば、問題ありません。
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